臨床医の海外研究留学 -メリットとデメリット-

医療xキャリア

もう8年程前になりますが、NYにある基礎研究室に行き、約3年間海外留学経験をさせていただきました。今回は、その経験を元に、特に臨床医で基礎研究海外留学を検討している方向けに、そのメリットとデメリットについて書いてみたいと思います。

基礎研究海外留学のメリット

・臨床から離れて、基礎研究に集中できる

・海外経験により視野が広がる

・家族と過ごせる時間が増える

・英語に恐怖心がなくなる

・帰国後、臨床にも深みがでる

基礎研究海外留学のデメリット

・家庭財政的にきつい

・日本とは異なる環境で受けるストレス

・臨床から一定期間離れてしまう

1つずつ見ていきましょう。

メリット1:臨床から離れて、基礎研究に集中できる

日本にいても臨床から離れて基礎研究に従事することは可能だとは思いますが、国内だと経済的な理由や、臨床から完全に離れる怖さから、臨床をゼロにすることはなかなかできないものです。その点、海外に行ってしまえば臨床経験は資格がないと不可能なので、強制的に基礎研究専門になります。そして研究をしっかりと学ぶことができます。初心者が研究手法を学ぶには、基礎研究にしろ臨床研究にしろ、連続性が非常に重要です。研究をしたりしなかったりすると非常に効率が悪い学習になります。実際、臨床の傍ら基礎研究をして、しっかり学ぶことができずに、結局続かないということは非常に多く、もったいないなと思います。臨床家にとっては、基礎研究は学ぶハードルが高いので、もし基礎研究に少しでも興味があるのなら、臨床をしながらではなく、一定期間海外に行って、集中的に基礎研究取り組むことをお勧めします。

メリット2:海外経験により視野が広がる

海外研究留学最大のメリットは、実は研究そのものではなく、海外で生活をするという「得難い経験」だと思います。いざ海外に行ってみると、日本では感じることができなかった「世界の多様な人種の中の一人の日本人としての自分」に気づくことができると思います。自分の研究室にもアメリカ、中国台湾、インド、バングラデシュ、アルゼンチン、ブラジルと国籍多彩で、彼らの考え方、文化に触れることができました。これは、非常に貴重な経験で、国内では味わえないものです。今まで当たり前と思っていたことがそうではないことを体感として感じることができ、いろいろな文化、考え方に触れることで、人生観が大きく変わる人を多くみています(自分もその一人です)。日本は居心地の良い国ですので、何も困りませんし、海外は怖いと感じるかもしれません。ですがぜひ勇気を出して国外に出てみてください。最初は大変なこともたくさんあると思います。しかし、帰国後にはほとんどの方が留学して良かったと言っています。

メリット3:家族と過ごせる時間が増える

自分が留学していた研究室は20人以上もいる大きな研究室だったのですが、夕方6時に残っているのは、2、3人という状況でした。彼らも7時にはほぼ帰っています。土日も自分が研究を詰め込まない限りオフです。もちろん、研究内容によっては土日に行ったり、夜遅くまで残ることもゼロではないですが、間違いなく日本の臨床での生活と比べるとオフの時間は多く、家族と過ごせる時間が増えました。研究室によっては異なることもあるかと思いますが、残業の量より、出した成果を重視してくれる文化がアメリカにはあるので、しっかりやってさえいれば、家族と過ごせる時間を心置きなく取れることは心の安定にも非常にグッドです。また、アメリカは非常に子供を大切にする文化が根付いていて、子育てに最高な環境も整っています。子供がまだ小さい貴重な時期に、海外留学して家族と過ごす時間を多くとるという選択肢はありかなと思います。

メリット4:英語に恐怖心がなくなる

最初は「英語怖い」、「文法間違えてたらどうしよう」という日本人特有の心配事はありました。ですが、英語で生活することを強いられるので、時間が経つとそういった恐怖心も薄れていきます。会話が通じればいいや、と開き直れるようになります。間違いなく英語力は上達すると思いますが、海外留学するだけでペラペラ喋れるようになるわけではないことには注意は必要です。留学から帰ってくると「いいなあ、英語喋れるようになって」と言われますが、「海外留学=英会話ペラペラ」ではありません。仕事では、医学研究内容に関して話すことは多いので、そういった会話には強くなりますが、自宅には日本語の家族が待っています。海外留学で英語への恐怖心がなくなることはメリットですが、留学のみでペラペラは期待しすぎです。英語力向上には環境だけでなく、自身の努力も必要なのはいうまでもありません。

メリット5:帰国後、臨床にも深みがで

臨床家が帰国後にも基礎研究を継続するかどうかは感覚的には五分五分といったところでしょうか。せっかく、学んだのに継続しないのは非常にもったいない気はするのですが、帰国するとまた多忙な臨床が待っているので、「基礎研究、あんまり自分には合わなかったな」と思われた先生方は、日常の臨床オンリーに戻っていく印象です。帰国後は成果があることが多いので研究費も取りやすく、また留学でじっくり基礎研究を学んだ後であれば、臨床をしながら基礎研究を継続することは不可能ではないですが、二刀流は簡単ではありません。好きでなければ続きかないのだと思います。ただ、臨床に戻るなら海外基礎研究留学は全くの無駄かというとそうでもないと思います。一見、回り道に感じますが、基礎医学を学んだ後は、疾患を病態から考える習慣が身についています。同じ治療を1つとっても、その治療を決めた背景が基礎研究を学んだ先生の方がより深くなりやすいと思います。自分自身も、基礎研究留学にいったことが、臨床診療に深みを与えてくれているなと実感できています。

デメリット1:家庭財政的にきつい

海外留学1番のデメリットです。留学にあたり、国内の整理をするのにかかる費用、渡航の飛行機代、海外での賃貸契約、自動車や家財購入など生活セットアップで非常にお金がかかります。さらに、研究先にもよりますが、一般的に給料は激減する上(時に無給!)、物価が高いところが多く、多くの基礎研究留学者は貯金を切り崩して生活している実態があります。自分の場合も、給料はもらえていましたが、高い家賃で全て消えてしまい、生活費は全て貯金切り崩しでした。帰国後には貯金はほぼなくなっていました。

デメリット2:日本とは異なる環境で受けるストレス

アメリカに住むと、日本のサービスがいかに素晴らしいかがわかります。基本、書類手続きなんかは、思った通りに進まないと考えてください。あちこちに数日かけてたらい回しされ、結局元のところに戻されたりします。買い物をする時の笑顔で丁寧な接客は、海外では当たり前ではありません。スタバドリンクを飲みながら、同僚と会話しながら接客対応なんてことは日常茶飯事です。日本では当たり前にスムーズに進む事が、予定通りに進まないことはストレスになると思いますが、決して挫けず、海外ではしっかり自己主張をしていってください。

デメリット3:臨床から一定期間離れてしまう

臨床から一定期間離れてしまうことはデメリットかもしれません。ただ、人によるとは思いますが、自分としてはあまりデメリットとしては感じませんでした。帰国後に臨床に戻った当初は確かに不安でしたが、しばらくすると、また臨床感覚は戻ってきます。自転車の運転なんかと一緒で、しっかり臨床経験を積んだ後の留学であれば、久しぶりでも全然できないなんてことは意外とありません。

以上、臨床医の海外基礎研究留学のメリット、デメリットをまとめてみました。

自身の結論としては、少しでも海外留学したい、基礎研究をやってみたいなと思うのであれば、メリットは十分大きいと思いますので、是非海外留学に挑戦してもらいたいなと思います。

本日の格言

 There is no security on this earth, there is only opportunity.

「この世界に安全などない。あるのはチャンスだけだ。」

Douglas MacArthur (ダグラス・マッカーサー)

勇気のある一歩を踏み出して、是非その手にチャンスをつかんでください。

それではまた👋