医師というと、患者を診ている臨床医の印象が強いと思いますが、臨床医の傍ら研究をされている先生も数多くいらっしゃいます。(もちろん、医師ではなく専門的に医学関連の研究に従事し頑張っている研究者も多くいます。)
今回はONE PIECEのDr ヒルルクを引用して、医学研究について知って欲しいと思います。
ここからネタバレを一部含みます。

引用:ONE PIECE(尾田 栄一郎)16巻 集英社
Dr ヒルルクが自分の経験したある奇跡の症例に関して、チョッパーに話します。心臓に重い病を持ったある患者の話です。彼は、あらゆる名医に治療を受けましたが、その不治の病は治ることはありませんでした。それがなんと完全に健康体に戻ったのです。
彼を治療したもの、それは
桜
でした。『山いっぱいの鮮やかな桜』をみたことで感動によって、体になんらかの変化が起こったのです。Drヒルルクは、その仮説を元に、「この世に治せない病気なんてない」という信念で、日夜研究に励み、その桜を人工的に作ることに成功します。

引用:ONE PIECE(尾田 栄一郎)カラー版16 集英社
Drヒルルクは臨床医としての能力に疑問はあるものの(苦笑)、医療に対する考え方が非常に尊敬できる部分が多く、医師である自分も勉強させられることが多いです。
解説
救急医をやっていると、残念ながら救えない命は多く存在します。何かもっといい方法があったんじゃないか、と自分を責めることもあります。しかし、たとえその時代に世界一のスーパードクターがいたとしても、救えない命というのは存在しているのです。
これらの命を救う為に僕らがやらなければならないこと、それが医学研究です。
医学研究は大きく「基礎研究」と「臨床研究」の2つに分かれます。
基礎研究では、細胞やマウスなどの動物を使い、病気や人体の仕組みの解明をしたり、治療薬として可能性のある薬を発見したり、動物レベルで新薬に効果があるか確認する研究です。Drヒルルクがやっているのも新しい治療薬(桜)の開発で、化学反応を試したりしていることを考えると、基礎研究の部類に入ると思います。
臨床研究では、実際に基礎研究で治療薬の候補になった薬などが実際に人間で効果があるかを評価します。基礎研究で効果がありそうと思われた候補薬もこの臨床研究で検討すると、ほとんどが無効(むしろ悪影響)という結果に終わります。人間は複雑で、動物で成功してもなかなかうまくいきません。基礎→臨床研究に至る数々の試験を乗り越えて、ある疾患の患者に対して効果が確認されたもの、それが新規の治療薬として承認に至ります。非常に狭き門です。臨床研究には、他にも集められたデータから今の医療システムや治療法の問題点を探る研究、社会全体での病気の分布や頻度などからその要因を知ろうとする研究など多くの種類があります。最近ではAIを使った予測なども流行ってますが、これも広くは臨床研究かと思います。
それぞれの医学研究の目的や方法はそれぞれ違いますが、ここで知って欲しいのは、医学研究の全ての本質は一緒だという事です。それは、
今救えない患者たちを、少しでも多く救いたい
という事。
臨床医は一人一人の患者を助けます。それはとても重要なことですが、医学研究はもし成果がでれば、今救えない患者、今よりも多くの患者を救えることができるようになります。Drヒルルクのように国を救うことだって可能かもしれません。
でも実は医学研究ってすごく地味なんです。地道な作業が多いんです。彼らはドラマの救急医のような派手さはなく、みなさんが見えるところにはあまり出てきません。しかし、Drヒルルクのように、長年試行錯誤しながら実験を続けて、世界中の人たちを助けたいと頑張っている多くの医学研究者たちが実際にいる事を是非知って欲しいと思います。
※ 医師の観点から世の中をみると、いわゆる「とんでも医療」が日本中にはびこっていることに残念に思います。これまでお話ししてきた医学研究の過程を全部すっ飛ばして、「〜したら癌が治った」などの誇大宣伝で、藁をもすがる思いで助けを求める患者さんの気持ちを利用しているのをみると非常に憤りを感じます。
自分が受けられる医療行為に対して、少しでも予備知識をつけてください。その治療法はきちんと医学研究の過程を通っていますか? ただ派手な成功体験が広告されているだけではありませんか?もし研究結果があっても、それはきちんと世の中で評価されている研究ですか?
このブログを読んで、「とんでも医療」の犠牲に合う方が、少しでも減ってくれる事を願っています。
本日の格言
『 It is only with the heart that one can see rightly. What is essential is invisible to the eye.』
(心で見なくちゃ、ものごとはよく見えない。 かんじんなことは、目に見えないんだ)
-Antoine de Saint-Exupery(アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ)
「The Little Prince」(星の王子様)より
※(原文はフランス語です。)
見えにくいところで、常に努力されている研究者たちへのリスペクトは忘れずに持っていたいですね。
それではまた👋